1.OVAを適当にダベる




ガールズ&パンツァー(ガルパン)OVA 『これが本当のアンツィオ戦です!』(『アンツィオ戦』)。
先行上映までは、さまざまな不安の声が上がっていた。

最も大きかったのは、当初の予定通り『2014年春までに完成するのか?』
まあ、これは仕方のないことなんで、ガルパンはTVシリーズ放映時、1クール作品の分際で、総集編2回という離れ業をやってのけた。
その理由は、『監督をはじめとしたスタッフが凝りすぎたため』
(監督の水島努が如何に凝ったかを知りたい向きは、アニメ『SHIROBAKO』第2話、演出の山田が木下監督に向かって放つ長台詞を参照の事)

ゆえに、多くの人間が「今回も懲りずに凝るだろうから、春までには完成しないだろう」と考えていたのだが、決してネガティブな意見ばかりではなく、むしろ「遅れてほしい」と考える者が相当数いた。
というのも、3ヶ月遅れで放映された第11話と最終回が、とんでもないクオリティに仕上がっていたため、ガルパン・ファンの頭の中に、『遅れる=高品質』というイメージが、刷り込まれてしまったのだ。

結局、この年の春は7月まであったわけだが、OVAの発売が遅れた理由は、『アンツィオ戦』BDに収録されたスタッフおよびミリタリーコメンタリーや、OVA公開後に発行された書籍などから分析すると、やっぱり『スタッフが凝りすぎたから』が要因だったと思われる。
そして、思った通りOVAの仕上がりは、実にハイ・クオリティだった。


そんな予定調和を除くと、特に大きかった不安の声が、次の2つ。

 1.絵コンテをカトキハジメに任せて大丈夫なのか?
 2.脚本を鈴木貴昭に(ry


カトキは、ガンダム・シリーズなどのメカデザインで有名な人らしいが、TVシリーズを通じてガルパンに全く関わってないし、
※ガンダムと言えば『カトキ立ち』

鈴木は考証およびスーパーバイザーとして、ガルパンを支えたスタッフの1人だが、TVシリーズの脚本は、吉田玲子が全12話を一手に引き受けていた。
※鈴木貴昭もしくは『阿吽(あうん)の右』

それが、なぜそれぞれの重責を担う事になったのか。

まず絵コンテを引き受けた経緯は、カトキ自身が語っている。
最初に声をかけられた時、TVシリーズのスタッフを気遣って断ったが、
 「劇場版にフルメンバーで力を注ぐためには外人部隊が必要で、本当に人手が足りなくてOVAの絵コンテをやれる人がいなかったようでした。そこで、水島監督を含めたみなさんから「カトキがコンテをやってもいい」という同意があるということで引き受けました」〔ガルパンの秘密〕

一方、脚本の鈴木とプロデューサーの杉山潔によれば、
 鈴木 カトキさんは、ご自身から立候補いただいたんです。ある日に、私の知り合いであるメカニックデザイナーの明貴美加さんから「カトキさんが“なぜ俺を『ガルパン』に呼ばないんだ”と言っている」って連絡があったんですよ(笑)。それをアクタスに話して、後日カトキさんに正式な依頼をしていただいた形です。
 杉山 水島監督やテレビシリーズのスタッフのみなさんが、劇場版なども並行で作業しており、わりと手一杯だったので、ありがたくお願いしました。今回は絵コンテをやっていただいたのですが
(※)、シナリオの打ち合わせにも参加いただいて、多くのアイデアをもらいました。〔コンプリートブック増補版〕

(※)ここで杉山が、「今回は絵コンテ」と言っているのが、ちょいと気になっていたんだが、『アンツィオ戦』公開後に発行された〔お疲れ本2〕所収の『誌上番外編 スタッフコメンタリー』によれば、どうやら劇場版制作でもカトキに『幾つかお願いしなければならないものが出てきてる』らしい)

という事で、双方の証言に食い違いが見える。

 カトキ「制作側から依頼があった」鈴木杉山「カトキが手を挙げた」

このままでは少し気持ち悪いので、適当に結論を出してみる。

まず、私は鈴木の証言に出て来る明貴美加という人を知らなかったんだが、Wikipediaの記事によれば、明貴はカトキと1歳違い(カトキが年上)で、『業界ではカトキハジメや毛利和昭、麻宮騎亜とも交友が深い』などと記されている。

一方、〔ガルパンの秘密〕によると、カトキは小学生の時から戦車のプラモデルを作っていたというマニアだが、技術的な面に加え、娯楽として成立させるのが難しい素材であるという理由から、
 僕は「戦車をアニメでやる」ということを、とうに諦めていたんです。

そうした中、ガルパンの放送が開始され、
 それを手弁当で血を流しながらやっている人たちがいて、ちゃんとできているということに申し訳がない気持ちになって、映像を見ているうちに、自分も何か少し出来ることはないかなと思ったわけです。

そんな折、
 ちょうど第2話か第3話が放送されているくらいの時期に「『ガルパン』の素材になるものを提供してほしい」という連絡が入った。

そこでカトキは、静止画の戦車のクオリティアップに関してなら手伝える旨の返事を出した。

ところで、『アンツィオ戦』の試合終了後、みほと握手を交わしながら、自校の選手たちにアンチョビが「そうだよな!」と呼びかけ、一同が「おー!」と声を上げる場面。
その背景となっている一枚絵だが、上がって来た原画のクオリティが低かったため、『アンツィオ戦』でイタリア関係の監修などを務めた吉川和篤が手を加え、
 それをカトキさんがさらにブラッシュアップしているんです。ガントラクターなどの細かなディテールへのこだわりが、本当にすごかったですね。〔コンプリートブック増補版〕


これについては、スタッフおよびミリタリー・コメンタリーで、水島らが特に取り上げているし、『誌上番外編 スタッフコメンタリー ミリタリーチーム編』〔お疲れ本2〕でも、吉川や才谷屋龍一[コミック版の著者]などが絶賛している。
それを考えると、TVシリーズ中にカトキが「静止画の戦車のクオリティアップ」を申し出たのも、むべなるかな。

さて、このように協力の意向を伝えたカトキだったが、彼の所に連絡が来たのが遅かった事もあり、
 すでにかなり作業が進んでいて、僕が新しく入る状況ではなかったのでテレビシリーズは参加できなかったという感じでした。〔ガルパンの秘密〕

こうして時機を失したカトキは、相当くやしかったのではないかと想像するが、その気持ちを引きずっている時に、映画とOVAの話を耳にしたなら、「今度こそ手伝いたい! いや手伝わせろ!」という心の叫びが、無意識の内に表面化したとしても不思議ではない。

であったなら、本人から聞いたか、あるいは人づてに知ったのか、カトキの「手伝いたい」を耳にした明貴が、気を利かせて鈴木に教え、鈴木からアクタスへ伝えられ、アクタスがカトキに依頼したというのが、カトキの絵コンテ参加の実情なのではないか。
そう考えると、カトキ側から見れば「アクタスに頼まれた」となるし、鈴木にすれば(明貴を通じて)カトキが立候補した」となるだろう。


次に、鈴木が脚本を書くようになった理由だが、こちらも鈴木自身がインタビューで、
 劇場版の制作も決まっていたので、吉田玲子さんが両方書くのは難しいという事情もありました。それに元々、BD/DVDの特典に付いていた短編OVAの脚本は基本的に私が書いていて。その流れもあって私が新作OVAの脚本も担当することになったんです。〔OVAパンフレット〕

また、プロデューサーの杉山も、別の座談会の中で、
 杉山  鈴木さんに脚本をお願いしたのは、これまでBD、DVD特典のOVAの脚本を主に担当していただいていた流れです。〔コンプリートブック増補版〕

ところで、『アンツィオ戦』のスタッフ・コメンタリーを聞くと、「制作スタッフの間では、今回の作品を『OVA7(おー・ぶい・えー・なな)』と呼んでいた」とか、「本編では一度もなかった、みほによるサブタイトル・コールを入れた」という話から、完全新作でTVシリーズのストーリーを補完する内容でありながら、スタッフ間における『アンツィオ戦』は、特典OVA≒オマケという感覚だったのかもしれない。
だとすれば、いくら金を取るとは言え、オマケごときに力を入れすぎだろう。


さて、こうして決まった絵コンテと脚本の人選に、不安の声が上がったわけだが、実を言うと私の場合、絵コンテに関しては何の不安もなかった。
というのも、そもそもカトキハジメという人を知らなかったので(ちなみに私は、いわゆるファーストガンダム世代で、続編は全く見ていない)、
 「どこの誰かは知らないけれど、そうそう下手な人選はするめェ」
と、ノンキに思っていたわけだが、結論から言うと、この人選は大正解だったと思う。

その最たる例が『カエサル登場』で、これは『アンツィオ戦』だけでなく、全ガルパンの中でも屈指の名シーンと言える。

 ・住宅街に響く重い金属音に、みほ「ビクゥ!」
 ・ビールケースを利用して、装填の練習に励むカエサル
 ・疲れ果てて縁側に倒れ込むカエサルのお尻
  

お尻は、純然たる私の趣味だから異論もあろうが、装填トレーニングに関しては、誰もが同意してくれるはずだ。

鈴木によれば、
 あれは、コンテを描かれたカトキさんのアイデア。シナリオでは「ダンベルを持って、砲弾装填の動きを繰り返すカエサル」としか書いてない。〔OVAパンフレット〕
 脚本では16キロのダンベルを持って練習している、とだけ書いてあったんです。それをああいう本格的な装填の練習に[カトキが]膨らませてくださったんですよ。〔OVA『鑑賞の手引き』〕

『ダンベルで砲弾装填の動き』という事は、
 1.地面などに置かれたダンベルを手に取る
 2.ダンベルを左肩の辺りまで持ち上げる
 3.持ち上げたダンベルを前に突き出す
 4.ダンベルを地面などに戻す or 腕を下ろす
(以下、1 or 2に戻って繰り返し)
という感じになるのだろうが、これでは余りに地味すぎるし、それより何より、砲弾の落ちた音を聞いてビクッとするみほが見られないのが致命的だ。

また、歴女たちの私生活を導入した契機について水島は、『アンツィオ戦』のスタッフ・コメンタリーでも話しているが、
 歴女チームの私生活の描写は、シナリオ会議でカトキさんが「歴女チームって普段何しているんだろう」と発言されたことがきっかけで生まれました。〔OVA『鑑賞の手引き』〕

つまりカエサルのトレーニング(お尻を含む)だけではなく、ソウルネームの表札も、龍馬コスプレのおりょうも、くノ一風ポニーテールの左衛門佐も、個性的な『湯呑み』も、カトキのおかげで見る事ができたと言えるのだ。
   

また、III突=カエサル vs M41=カルパッチョの一騎打ちでは、戦車道ならではの熱いバトルが繰り広げられたわけだが、当初、鈴木は長砲身のM41で、III突との『対等な戦い』を目指したものの、よんどころない事情によって、短砲身にせざるを得なかった。


その辺りについては、鈴木がいくつかのインタビューで、
 脚本ではM41セモヴェンテをもうワンランク上のもうちょっと強い車輌にしていたんです。なぜかというと今のM41だと弱すぎて、III突に主砲で勝てないんで。でも、モデリングの都合や本編との整合性から、今のM41でやらなくてはいけなくなった。〔OVA『鑑賞の手引き』〕
 III突とセモヴェンテの一騎打ちについて、私はセモヴェンテをもう少し強い、砲身の長いタイプの設定で考えていたんです。でも、それでは7話の絵と合わなくなるという事で砲身の短いタイプになった。〔OVAパンフレット〕

などと語っている事からも察せられるように、どうも鈴木は、TVシリーズとの整合性について、他の人ほどは留意していなかったように思われる。
(『アンツィオ戦』以前にも、麻子&そど子の遭難が心配されるほどの異常な吹雪[OVA第5話]など、彼の脚本や小説には、本編と微妙に食い違う部分がチラホラあったので、そこら辺は『鈴木の中の設定』と割り切るべきだろう)

一方のカトキは、逆にTVシリーズとの整合性に、とことん拘ったようで、
 「ここ、これだとTV本編とつながらないんじゃない?」など[カトキが]いろいろな指摘もしてくださって。」〔OVA『鑑賞の手引き』〕
 カトキさんはプラウダ戦への伏線としてバレー部と生徒会チームの操縦がうまくなっている描写を入れてくださったんです。大洗女子の演習シーンで2両がずっとグルグル回っているのは、そういう意図もあるんです。〔コンプリートブック増補版〕


 ――本筋からは外れますが、まだ仲間ではない、ねこにゃー、風紀委員、自動車部も登場して嬉しかったです。
 鈴木 監督からも、カトキさんからも入れて欲しいと言われていました。特にカトキさんは本編をすごく観ていて。7話のあのシーンに繋がるようにという事をすごく意識するだけでなく、後から出てくるキャラも突然に見えないようにと気を使われていました。
〔OVAパンフレット〕
  

という鈴木の証言に加え、『アンツィオ戦』のスタッフおよびミリタリー・コメンタリーにおいても、出席者の口から、カトキが本編との合致に拘ったエピソードが語られている。

さて、カルパッチョのM41を長砲身に出来なかった原因は、鈴木も言っているように、
 TVシリーズ第7話のラストの数カットとの整合性などにも気を付けました。〔OVA『鑑賞の手引き』〕
という水島やカトキら他スタッフの拘りに加えて、長砲身セモヴェンテの3Dモデリングを作る時間がなかったためだった。

ところで、vsアンツィオを想定した模擬戦を見ると、III突の行った練習は、1500m先の標的に当てる長距離射撃と、戦車を停止させた直後に砲撃する『躍進射撃』の2つ(正確には、1500m先の標的を躍進射撃で狙う練習)。


劇中、この練習をする意義について、みほは「安全な距離からP40を撃破するため」としているが、実際のところ、躍進射撃は準決勝(vsプラウダ高校)の緒戦、左衛門佐がT−34を撃破するシーン(第8話)への『伏線』と考えられる。


であれば、残りの長距離射撃を、鈴木はカエサルvsカルパッチョのセールス・ポイントにしたかったのだろう。

ところが短砲身M41だと、長距離での撃ち合いでカルパッチョに勝ち目が全くない。
 そこでカトキさんがいろいろ考えてくださって。力で勝るほうが勝つ、弱い者いじめみたいな内容にならないようにしてくださって。それで出てきたのが超至近距離の戦闘だったんです。〔OVA『鑑賞の手引き』〕
 カトキさんは、どうすれば互角の戦いに見えるのかということをずっと考えていらしたんですが、その結果が、砲身と砲身がぶつかり合う、ジョスト(馬上槍試合)みたいな演出になったわけです。〔コンプリートブック増補版〕

という、アイディアマンの鈴木にすら予想できなかった超接近戦になったわけで、言わば『ガンカタ』ならぬ『パンカタ』だが、その辺りに関してはカトキ自身が、
 昔「ガンカタ」はコマ送りでチェックしたからそれが出ちゃったのかもですね。戦車の格闘戦っていうのがガルパンの発明だと思うので、12話で格闘戦を見たから「(今回は)じゃぁ肉弾戦?」みたいに考えましたね。〔お疲れ本2〕

そうして出来上がった一騎打ち。
両者が文字通り火花を散らす戦いは無論、力強く装填するカルパッチョの格好よさは、第4話で見られるペコたんの優雅さと双璧をなす。
 
(もっとも装填シーンに関しては、伊藤岳史[ミリタリーワークス]の画力によるところが大きい〔お疲れ本2など〕そうな)

一方で、もし長砲身セモヴェンテがOKとなり、2人の戦いが長距離での撃ち合いになっていたら、相手を撃つたび岩陰などに身を隠し、隙を窺っては少しずつ近づいて行く、西部劇か刑事ドラマのような展開になったのではないかと思う。

であるなら、アヒルさんvsCV33sやウサギさんvsM41×2、さらには両チームフラッグ車を中心とする本隊同士の戦闘と比べて、割と静かな戦いになった可能性が高いから、うまく緊迫感を出さない限り、目玉の一つである『カエサルvsカルパッチョ』が目立たなくなってしまう。
  

まあ、そこらへんはスタッフが、よってたかって盛り上がるようにしただろうが、結局は常識の中での戦いに、きっちり納まったような気がする。
とすれば、面白く描けても名場面にはならなかったに違いない。


また、水島はカトキハジメの個性を感じた箇所を聞かれて、
 ジャンプしたCV33のハッチからアンツィオの選手の頭がぴょこっと飛び出す、という部分にカトキさんの戦車愛を感じました。私にはない発想で、びっくりかつ嬉しかったです。〔OVA『鑑賞の手引き』〕


と答えているが、その場面は『春の豆戦車まつり』の真っ最中に見られるもので、ちなみに顔を出してるのはペパロニ副隊長+α。


以上、わき道に逸れてばかりのため、冗長になってしまったが、各人のインタビューおよびコメンタリーの端々から判明したカトキの拘りを、簡潔にまとめれば、

 ・カエサルの装填練習(とお尻)を含めた歴女チームの日常
 ・第7話のラストシーンを始めとする、TVシリーズとの整合性の追求
 ・III突vsM41の『パンカタ』
 ・『春の豆戦車祭り』

など、全て『アンツィオ戦』の見どころと一致しているのは、評価と賞賛に値する。
また、BDの『スタッフ・コメンタリー』で、カトキが積極的かつ楽しそうに仕事をしていたと、他のアニメ作品を引き合いに出しつつ、冗談交じりに語られていた事からも、彼が本気で『ガルパン』に取り組んでいた事が察せられる。

こういうわけで、絵コンテの方は心配していなかったし、結果的に『絵コンテ=カトキハジメ』は大成功だったと言える。


一方、本放送時からガルパンを見て来て、初回限定版BD全6巻を揃えた身としては、鈴木の脚本に、結構な不安を抱いていたわけで、その理由が、特典OVAの脚本の出来。

私にとって、OVA1〜3および5の感想は、
『つまらない事はないものの、面白いとも言い難い。』

まず、鈴木のギャグが私に合わないのであって、たとえば、鈴木が発信源と思われる有名なガルパン・ネタとしては、

 ・大洗女子の学園艦の『地下』には男子校があって、重労働をさせられている
 (「大洗の男子はどんな高校に行ってるんだ?」という疑問に対するジョーク)
 ・蝶野亜美が10式の上で、一升瓶片手に胡坐をかいている
 (第6話の一場面だが、実際には両手とも膝に置かれている。ただし「左手が怪しい」というのはタブーだ)


この2つは、いずれも本編BD特典の「スタッフ・コメンタリー」で、彼が楽しそうに笑いながら言ってるのだが、私はそこまで面白いとは思わない。
ただ、当然ながらギャグやジョークに関しては、人によって笑いのツボが異なるわけで、上に挙げたネタなどは、他のガルパン・ファンに好んで使われているようだから、私みたいな人間は、むしろ少数派なのだと思われる。

それよりも気になるのが、メトロノームが刻んでいるかのように単調なリズム。

キャラクター重視という特典OVAの性質上、仕方ない事なのかも知れないが、鈴木のシナリオに出て来る会話は、真っ平らな道を同じペースで歩いてる/走ってるように聞こえる。

 ・OVA1『ウォーター・ウォー!』における一連の試着シーン。
 

 ・OVA2『サバイバル・ウォー!』における一連のミリタリー講座。


 ・OVA3『スクールシップ・ウォー!』における一連の観光案内(温泉を含む)


 ・OVA5『スノー・ウォー!』における一連の偵察活動


どれもメリハリの付けようがない会話で成り立っているから、話に引き込まれないし爆笑もできない。

そこら辺を言えば、吉田玲子の脚本はテンポもリズムも実に良かった。
同じ土俵という事で、OVA6『エンカイ・ウォー!』を見てみると、チームごとにテンションを変え、隠し芸は元より雑談においても、必ず最後にオチをつけ、と言った具合に、飽きさせる事なく描き切った腕は、さすが超売れっ子のシナリオ・ライターだと感服つかまつった次第。
      
(その他、吉田脚本と鈴木脚本の違いについては、コチラで簡単にダベっております)

それが頭にあったもんで、鈴木が脚本というのに結構な不安を抱いていたわけだが、結論から言えば、不安は的中してしまった。

と言っても、『アンツィオ戦』自体は楽しく面白く見る事が出来た。
つまり全体的なストーリーやバトルは、及第点を遥かに上回っているわけで、これからグダグダ書いて行くのは、全て重箱の隅である事を、はじめに断っておく。

また鈴木は、彼の書いた脚本とカトキの描いた絵コンテについて、
 私が書いたシナリオは、テンポの早い水島監督ならおそらく30分くらいで終わるだろうなって分量だったんです。それがカトキさんの上げてきた最初の絵コンテだと60分くらいになっていまして。アイデアの膨らませ方がすごかったです。〔OVA『鑑賞の手引き』〕

そうして完成した『アンツィオ戦』は、全て入れて38分という事なので、これから突っつく重箱の隅には、カトキのアイディアが入っている可能性もある。
つまり、「絵コンテ=カトキは大正解」が、実は「絵コンテ=カトキも失敗」だったという話になるかもしれないという事も、併せて言っておく。
個人的には、そこら辺をハッキリさせるためにも、鈴木の脚本とカトキの絵コンテをぜひ見てみたい。

さらに、カトキによれば、
 結構監督がセリフ足すんだよね。監督って足しもするし、自分で書いたのもバサッと切るんですけど、「こんなに長く喋ると芝居もせざるをえなくなるかな?」みたいな事って結構ありますよね。〔お疲れ本2〕

との事なので、『水島こそが諸悪の根源』になってしまうかもしれないという事も、ついでに言っておく。


I.(雑談時の)セリフの長さ

大事なセリフを、じっくり聞かせる場面なら、その長さが何ページになっても構わないが、本筋との関連が薄い雑談やギャグの場合、また重要なセリフでもアップテンポの場面では、短すぎるぐらいが丁度いい。
少しでも長いと、焦点がぼやける恐れがあるし、リズムもガタガタになるためだ。


例1)『お前らそれでいいのか!』

オープニング前、アンチョビを中心とする「秘密兵器!」の場面。
その正体が、いよいよ明らかに――と思った瞬間、お昼のチャイムが高らかに鳴り響いて、生徒たちが我先にと走り出し、残されたアンチョビらがため息をつくのだが、
 アンチョビ お前らそれでいいのか!


と一同を呼び止めるチョビに対して、生徒の1人が、
 戦車長4 今の季節食堂のランチ、売り切れ早いんスよ!!


確かに、このセリフはアンツィオ気質を示す上で必要だと思うが、まるっきり説明文な上に、いささかピントがズレている。
ここで強調すべきなのは、彼女たちの食に対する執着心、なかんずく 『戦車<昼食』の事実。
また、「今の季節〜」を言い始めてから言い終わるまで、この生徒は何メートル走っているのかというのを考えれば、さすがに長すぎるだろう。

それらを考慮すると、「おまえら、それでいいのか!」に対しては、
 「ランチの後で見ますから!」とか、
 「秘密兵器は逃げないっしょ?」とか、その程度で十分だと思われる。
その上で、他のモブたちに、 「季節限定をゲットしろ!」 「売り切れちゃう〜!!」てな事を、〔台本〕にある「ご飯ご飯〜」「パスタ! パスタ」などと一緒に言わせれば、何も問題はない。


例2)『CV33って私大好きです』

オープニング直後の、生徒会長室における作戦会議っぽい何か。
本来なら、あんこうチームだけを呼んでいる事に最大級の疑問が投げかけられるところだが、この場合はファンに対する「ただいまー♪」だと思うので、何も言わない。
ついでに言うと、再び行われた優花里のスパイ活動も、
「ネタも工夫もないのか(#゜Д゜)ゴルァ!」
と怒鳴りたいところではあるが、ペパロニが素晴らしい味を出していたので、まあ許してやってもいい(エラそうに……)。
それよりも、CV33を巡る華と沙織のやり取りが不満だ。

  CV33って私大好きです。小さくて可愛くてお花を生ける花器にピッタリです。
 沙織 いくらなんでも花器には大き過ぎない? ひまわりでも生けるの?


この中途半端な長さのセリフが、リズムを悪くしている。

本筋と離れた雑談において、軽快なリズムを保持したまま次の本筋に繋げようと思ったら、
 ・それぞれのセリフを一息で軽く言い切れる字数、かつ「。」1つで終わらせるのがベター
 ・特に韻を踏むのでない限り、語尾の重複は避けるべき
という私個人のポリシーからすると、まず華のセリフが許せないわけで、ここは『。』で2つに分け、華と別の子に分配するべきだと考える。

同様に、沙織のツッコミも手直しする必要があるだろう。

ガルパンのOVAを見ようという人間なら、CV33は知っているだろうし、知らなかった人は、とっくに予習済みだろうし、たとえ知らなくても戦車を花器にする事が非常識なのは誰だって分かるから、あえて沙織に「大き過ぎ」と言わせる必要はない。

これらを元に台詞の割り振りを考えると、
 沙織 CV33って、華が好きな戦車だったよね。
  はい! 小さくて可愛くてお花を生ける花器にピッタリです。
 麻子 …ヒマワリでも生けるのか?

ちなみに、華へのツッコミを麻子にしたのは、
 ・主に沙織がボケて華がツッコむという、TVシリーズにおける関係性を維持したいため
 ・会長室のシーンで、麻子が何もしゃべってないため

なお、麻子の扱いに関しては大いに不満があるのだが、それは後述する。


例3)「あいこじゃん」

マカロニ作戦を看破した後、2両のM41に追われるM3リーの車内で、1階のトリオが漫才をするシーン。


 優季 回り込んじゃいなよ。
 桂利奈 逃げるので精一杯。
 優季 そうだ考え方次第だよ。向こうは一輌にひとつの砲、こっちはふたつ、あいこじゃん。
 あゆみ なるほど!
 あずさ なるほどじゃない!

ここも、優季の台詞が多すぎるわけで、とりあえず笑いの取りやすい彼女を使いたくなる気持ちは分からなくもないが(あるいは鈴木の好みが反映されている?)、

 あゆみ 回り込めないかな?
 桂利奈 逃げるので精一杯。
 優季 でも向こうは一輌にひとつの砲、こっちはふたつなんだから――
 あゆみ なるほど、おあいこだね!
 あずさ そういう問題じゃない!

てな感じで、あゆみに少し割り振った方がバランスが取れる。


II.1年生の成長過程

TVシリーズの整合性に、強く拘らなかった鈴木の脚本が悪かったのか、拘りすぎたカトキや水島のせいなのか、1年生の戦車道に対する姿勢や、戦車を動かすテクニックが、スムーズに成長していないように思える。


例1)「もっと飛ばして〜♪」

サンダース大学付属高校との1回戦(第5話)。
ウサギさんチームのM3リーは、6両のM4シャーマンに追われながら、何とかIV号+八九式と合流、回り込んで来た敵とすれ違った後は、他の2両に遅れる事なく、頑張って蛇行運転をしながら丘を越えている。


それが、アンツィオ戦を仮想して行われた模擬戦では、IV号やIII突に追いつけず、うねりの続く地面を、まともに進む事さえ出来なかった(いちおう〔台本〕には『これ迄のガルパンの中でも最も激しい高低差のあるオフロード』と書かれてるけど……)。


そして試合当日。
同じM3が、偵察のために山林の中を軽快に走り、その後、荒れ地を追って来る2両のM41から逃げおおせたのみならず、分度器作戦発動で転進した2両を逆に追いかけ、いずれも見事に撃破している。


次のプラウダ戦(第8話)では雪の中を、整地を行くが如く疾走し、包囲網からの脱出行(第9話)では、麻子が「きつめ」というルートを遅れずについて行き、最後は「私たちよりアヒルさん守ろう!」で、八九式の盾になった。


こうやって書いてみると、模擬戦での未熟さだけ浮いているのが分かるだろう。

1回戦で包囲されかかった時、M3が撃破されなかったのは、桂利奈の操縦テクニック云々より、M4軍団の攻撃が主に行進間射撃だったため、さらには森林の中という事で、砲弾の当たる確率が極端に低くなっていたからだろうが、一度も事故る事なく樹木の間を縫うように走り続け、M4に追いつかれずに僚車と合流できたのは、結構すごい事だ。

それに対して模擬戦の操縦は、あまりにもお粗末すぎる。
「桂利奈は本番に強い子だから」で納得できるレベルじゃないぞ。


例2)「本物だぁ〜!」

TVシリーズで1年生が演じて来た『おバカ』な台詞を並べてみると、

 優季 あの〜、それでどうするんでしたっけ?(第1話 vs聖グロリアーナ、試合開始直後)
 あや せっかく革命起こしたのにぃ。(第4話 vs聖グロリアーナ、桃の「戦車に乗り込め!」を聞いて)
 あゆみ 無理です
 優季 もういや〜(第4話 vs聖グロリアーナ、試合最中に敵前逃亡)
 優季 あ、砲弾忘れてた!(第5話 vsサンダース大学付属、1回戦の試合直前)
 あや ぶっつぶせー
 桂利奈 ぶっ殺せー
 あゆみ やっちまえー(第8話 vsプラウダ、3回戦でスターリングラードる直前)
 優季 包帯巻いとく?(第9話 vsプラウダ、3回戦の休戦中)
 桂利奈 かりなぜっこーちょー(第12話 vs黒森峰、リタイア直後の『ケガは?』の問いに)

こうして見ると、意外にも彼女たちの『おバカ』な言動は、ほとんどが試合に悪影響を及ぼさない状況で行われている。
vs聖グロリアーナの敵前逃亡は、言うなれば『おバカの骨頂』だが、実際のところ、逃げなかったとしても同じ場所で撃破されていただろうし、vsプラウダの「ぶっ殺せー」は、直後の『スターリングラード』に繋がるものの、ここで盲進しているのは、あんこう以外の5チームなのだから、1年生だけを責めるわけにはいかない。

一方、『アンツィオ戦』における1年生のおバカを見ると、

・偵察の任務中、桂利奈の操縦に感動して、
 あゆみ 速ーい練習の成果だね
 優季 きゃーもっととばしてー
 あずさ 出過ぎ出過ぎ! もう街道だよ!


・マカロニ作戦看破後の偵察中、2両のセモヴェンテを発見して、
 あずさ あッ2時に敵影!
 あや またセモベンテ〜! さっきと一緒だぁ。だまされるもんか〜
 あずさ ちょっとッ
 あや おりゃ (射撃) ゲッ本物だ
 あずさ もおっ!


確かに1年生は、そういう子たちばかりだし、それが彼女たちのチャーム・ポイントだし、澤梓を演じる竹内仁美によれば、
 竹内 試合も遠足気分だって言われたこともありましたね(笑)。〔第5巻『鑑賞の手引き』〕

ただ、聖グロリアーナとの練習試合の後(第4話)、神妙な顔つきで隊長たちに頭を下げた6人からは、敵前逃亡した事を、十分に反省している様子が見て取れるし、


1回戦の対サンダース戦(第5話)、シャーマン軍団を発見する直前の車内では、
 優季 ムシムシする〜
 かりな 暑い〜


と、緊張感のカケラもない顔を晒しているけれど、終盤、ファイアフライが登場した後の、
 あずさ …今度は逃げないから!
 1年一同 うん!


という場面(第6話)を見れば、少なくとも交戦中は、遠足モードも影を潜めていると思われる。

それが2回戦で、いきなりの大ボケ2連発。
まあ、『きゃーもっととばしてー』は、まだアンツィオの戦車を見る前だから仕方ないとしても、あやちゃんの「おりゃ」は、ノリと勢いに定評のある彼女を如実に表現しているとはいえ、さすがにヒドすぎる。
『アンツィオ戦』のスタッフ・コメンタリーでは、2回戦における1年生について、
 「だいぶ真面目になっているけど、まだ遠足気分が抜けきれていない」
てな事を水島が言っているのだが、それにしてもねぇ。

むしろそこは、「またニセモノかー(笑)」で通り過ぎようとするM3リーに、アンツィオ側が砲弾を浴びせかける方が、パニック感が出てよかったと思う。


III.沙織の家にて

『アンツィオ戦』において、唯一ガッカリしたのが、模擬戦後に映し出された「あんこうの日常」。
『ハムになる帳』には、思わずニヤリとさせられたものの、それ以外は退屈きわまりない時間だった。


例1)さおりんの妹マダー?(・∀・)/凵チンチン

個人的に、このOVAで楽しみにしていたのが、実は『沙織の家族』だった。

第4話で華、第5話で優花里、第7話で麻子、そして第7話などでみほと、他メンバーに「家庭の事情」紹介コーナーがあったのに、沙織に関しては、全く何の情報もなし。
   

家族構成が『父、母、妹』という事は判明しているが〔選手名鑑〕、本編では全くと言っていいほど触れられていない。
最初の校内練習試合が終わった後のお風呂で、沙織自身が言った「お父さんはいつも私のこと、大好きだって言ってるもん!」(第3話)だけである。

これは憶測だが、当初は2回戦の前後に描く予定だったのが、尺の都合でアンツィオ戦がツブれたため、沙織の家族紹介もツブれたんだろう。

だから、それはOVAで明らかになるんだと思ったのに、全く必然的でない理由で「ごはん会@沙織ん家」。

沙織と家族の再会を描くのが難しかったのだろうという事は、容易に推察できる。
アンツィオとの試合が迫っている中、学園艦を離れて大洗の実家に、チームメイトと一緒に行くのは不自然だし、武部家が揃って学園艦を訪れるというのも、それなりの理由が必要だ。

とすれば、後は試合会場という事になるわけだが、試合前は準備やらミーティングやらで、家族と会ってる暇などないだろうし、試合後は、アンツィオの愉快な連中との宴会が決定しているから、家族の入り込む隙はない。


だからといって、ドラマCD『もうすぐアンツィオ戦です!』収録の『不肖・武部沙織のイタリア料理講座』と関連付けるためか、全く新鮮味のない「みんなでお料理」は、ひどすぎる。
かてて加えて静止画フルパワー!
(ただし静止画に関しては、『アンツィオ戦』のスタッフコメンタリーで、水島が申し訳なさそうに「止めてしまいました」と言っている事から、予算か時間か、その両方かがなかったんだろうと思われるんで、あまり責められない)

まあ、じっくり劇場版で(妹を中心に)見せてくれるというなら、そっちの方がありがたいんだが、だったらOVAは『ごはん会』じゃない、別の何かにして欲しかった。

もっとも、水島が作詞した『それゆけ! 乙女の戦車道!!』の5番に、みほが『ごはん会』に拘っているかのような表現があるから、これは必要不可欠な要素なのかな……?



例2)眠くなければ麻子じゃない症候群

『アンツィオ戦』のオープニング直後の作戦会議。
みほ・沙織・華の3人が生徒会三役と談笑(?)している中、麻子だけは眠りこけており、台詞も全くない。


そして「ぴよぴよ」たちを用いた練習後、沙織の家に着いた麻子は、妙な唸り声を上げながら入室し、テーブルの下に潜り込んで就寝しようとした。


私が思うに、これはアニメに限らず、TVにおける悪しき慣習である。
1つの設定がウケると、必然性を無視して強調しまくるのだ。

だから麻子は、第7話において、「そういえば、わたしも少しだけ低血圧が改善されたような……」


と、眠そうじゃない普通の顔で言っているにも関わらず、『アンツィオ戦』では、いつも眠くなければいけないキャラクターになってしまった。
     


一体、時間的に第7話の練習と『アンツィオ戦』の練習と、どちらが先か考えてみると、第7話において、副隊長の桃が全メンバーに向かい、
 河嶋 一回戦に勝ったからといって気を抜いてはいかん!(ry
と訓示している事から、あの場面は1回戦が終わって最初の授業(練習)であると推測できるし、
 ・第7話のIV号に『ぴよぴよ』が、八九式に『かるろべろーちぇ』が描かれていない
 ・第7話でエルヴィンが躍進射撃について質問している一方、『アンツィオ戦』ではカバさんチームに、みほが正しい躍進射撃の方法を教えている
この2点を傍証とすれば、第7話の練習→『アンツィオ戦』の順番である事は、ほぼ間違いない。

また、1回戦と2回戦の間が何日ぐらい開いているかだが、『戦車道試合規則』には、
 2−03競技場 競技場は、試合前72時間までに規定の書式の地図(競技区域)、緯度、経度、気象状況が、競技者双方に提示される。〔戦車道ガイダンス〕

この最低72時間=3日は、次の競技場までの移動や、競技場の下見に必要な時間として与えられたものだろう。
また、大洗女子の試合の2日後に黒森峰という1回戦の日程(第6話)や、試合に出場した戦車の整備などを考えた場合、1回戦から2回戦までは、1週間ほど開いているのではないかと思われる。


であれば、『アンツィオ戦』でみほが歴女宅を訪問したのは、第7話より1日〜6日ほど後の事である。
ゆえに麻子の低血圧は、ほぼ第7話と同じぐらいのはずなのに、『アンツィオ戦』では、以前より悪化しているようだ。
これは本編において「眠い麻子」がウケたため、『アンツィオ戦』では設定を『朝に弱い』から『常に眠い』に変更したのだ。
放課後(練習後)も眠い理由について「生活リズムの崩壊」を漂わせている辺り、何をおいても麻子を『おねむ』にしようという意図が見え見えである。

さらに(これは脚本のせいだけではないだろうが)、TVシリーズと比較した場合、麻子の声が(眠い雰囲気を出すためか)以前より心持ち低くなり、喋り方も、ますます投げやりっぽくなっため、これまで全く感じられなかったウザさが、軽くではあるが頭をもたげて来ている。

その結果、『アンツィオ戦』の麻子は『いつも眠くて腹ペコなワガママ女』でしかなくなった。
『いつもクールで朝に弱いスイーツ好きの天才』という設定が、跡形もなく消え去ったのだ。

今回のOVA、眠いだけの麻子といい優花里のスパイといい『ご飯会』といいウサギさんのおバカっぷりといい、一部の設定を余分に強調したキャラや、本編と重複するネタが、どうも目に付く。
二匹目のドジョウを一網打尽にするのが目的だったのだろうか。


IV.マカロニ破れたり!

今回のOVAで、何よりの収穫がペパロニだった。


おバカなキャラは、大洗女子の1年生をはじめとして何人もいるが、あそこまで底抜けに明るくて人がいいおバカというのは、ガルパン内はおろか、これまでのアニメでも見た事がない。
(なお、彼女のキャラを視聴者に印象づけた『ナポリタン食いねぇ』のシーンは、
 カトキ あのカットは最初は私もおっかなビックリというか、水島監督とも仕事は初めてだし、「シナリオでは調理のシーンは無いんですが、こんなのどうですか?」的な感じでちょっと描いて、止めとかでもいいから料理のシーン欲しいなぁと思ったらフル作画みたいになって(汗)。〔お疲れ本2〕
という事なので、これもカトキの功績に挙げておくべきだろう)

だから、11個のデコイを全て設置したため、『マカロニ作戦』が台無しになったというギャグは、ペパロニのキャラクターがあってこそ成立したと言える。
その一方、優花里の異様な存在感が、残念でならない。
特に、試合中のIV号内におけるみほとの会話。

鈴木自身のコメントによれば、
 みほは偵察隊〔アヒルさんチーム〕の報告を聞いた時点で、速度を生かして戦うはずのアンツィオが動いていない事を不審に思って警戒はしていたはずです。〔OVAパンフレット〕

その「不審」と「警戒」から、ウサギさんにも先行しての偵察を命じ、結果的に「11両いる!」となり、マカロニ看破に繋がるわけだが、その偵察組からの報告後に交わされる、あんこうメンバーの会話中、優花里のセリフが特に気になる。


個別に見ると、
 「一番の要所を完全に押さえるなんてさすがアンツィオですね。」
――『一番の要所を完全に押さえる』作戦を立てたのが「さすがアンツィオ」なのか、それを可能にした機動力が「さすが」なのか、はっきりしない。
 「ノリと勢いを封印して手堅い作戦に出ましたね。」
――みほの言った『わざと中央突破させて包囲』を「手堅い作戦」と表現したのか、そもそも機動力の封印が「手堅い」のか、はっきりしない。

と言った具合に、どっちでもいい事ではあるが、少し曖昧な点があるのだ。

そして、何より気になったのが、それぞれの語尾「〜(です)ね」。
もちろん、TVシリーズでも同様のセリフは、
 「さすがきれいな隊列を組んでますね」(第1話・第4話)
 「早く乗りたいですね」(第2話)
 「いよいよ始まりましたね」(第4話)
 「…たしかに、ルールブックには傍受機を打ち上げちゃいけないなんて書いてないですね」(第5話)
といった具合に、何回もあった。
ただ、これらのセリフを言う優花里は、実に無邪気でウキウキしていたり、何かに集中していたりで、いずれも頭をなでてやりたいぐらいだ。
それが、上に書いた2つのセリフの場合、いっぱしの参謀を気取った口調だが、大した事は言っていないもんで、何かイラつく。


ところで、〔お疲れ本2〕所収の『ガルパン座談会』に、次のようなやり取りがある。

 金子 『ガルパン』といえば、知人が「秋山殿はいいねぇ」って言ってたんです。「日本のミリタリーマニアを遠心分離器にかけて、全部吹っ飛ばして最後に残った希望が秋山殿だ」って。
 鈴木 最後の希望ですよ。
 金子 じゃあ吹っ飛ばされた悪いミリタリーマニアは何なんだ?
 鈴木 それは金子さんや俺とか?
(金子=金子賢一[ガルパン制作に関わっていないミリタリーライター])

しかし『アンツィオ戦』の優花里の場合は、吹っ飛ばし切れずに何かが残っているような気がする。

優花里が『萌え』と縁遠い一般の人にも受け入れられた理由の1つに、『出すぎない姿勢』があった事は間違いないだろう。
最初の戦車探し(第2話)で、林の中に放置された38(t)を、後のあんこうチームが発見する件(くだり)。
 優花里 (前略)あ、t っていうのはチェコスロバキア製ってことで、重さの単位の事ではないんですよ!
      あっ……

 沙織 今、生き生きしてたよ?
 優花里 すみません……


このシーンから推測するに、おそらく優花里は、実在する全てのマニアと同様、興味の対象を前にすると、冷静でいられなくなる人間であり、それが原因で同級生などを大いに引かせた事が、少なからずあるのだろう。
それがトラウマになってるのか、沙織に謝罪している時の顔は、「またやっちゃった…」という感じで、何か切ない。

ところが『アンツィオ戦』では、そうしたバックグラウンドが、ほとんど窺えなくなっていた。
練習直後の「ごはん会やろー」で、「あのー……」と声をかけるシーンが、わざとらしく見えるほど、全くの別人になってしまっている。


そもそも本編における優花里は、インタビューで脚本の吉田が、
 ――あんこうチームのほかのメンバーについてはいかがでしょう?
 (前略)優花里に関してはマニアなんですけど、水島監督が「空気の読めないマニアにはしたくない」とおっしゃっていたので、戦車のことではすごく積極的だけれど、普段は少し控えめな立ち位置にしています。〔コンプリートブック〕
と言っている通りのキャラクターだったのが、遠慮会釈なしに最前線で活躍したがるKYなオタクに改悪されてしまったため、『アンツィオ戦』の優花里は私の目に、少なからず邪魔な存在に映った。
 

もっとも、これは『アンツィオ戦』だけに限ったことではない。
特典OVAにおける八面六臂の活躍から、鈴木の過度な「優花里バンザイ」には、ちょいとウンザリしていたのだが、
 だいたい彼女は、我々の「こんな娘がいたらいいな〜」という妄想を突き固めたような存在ですから(笑)。〔コンプリートブック〕
という彼の発言を考えれば、受け入れられない方が間違いなのかもしれない。


V.「お前は何が言いたいんだ?」

例1)「明日そっちに行くね」

装填練習に疲れたカエサルが縁側に倒れ込んだ直後、彼女とカルパッチョとの間で交わされた『会話』。

 ひな@伊多利 帰 宅 な う
 たかこ@大洗 ひなちゃん きたーーー!
 ひな@伊多利 明日 会いに行くからね
 たかこ@大洗 え?来るの、待ってるよー

私は最初、「明日は試合だから、あいさつに行くね」というぐらいの意味なのかと思ったのだが、その後、大洗女子チームによって行われた模擬戦の描写と、試合当日に2人が『久しぶり〜♪』と手を取り合っている姿を見て、この『会話』の意味が分からなくなった。

ごく簡単に『帰宅なう』から「久しぶり」までの出来事を示せば、
   ※『帰宅なう』
※みほがP40の資料を入手
※生徒会三役+各チームリーダーによる作戦会議
※「ぴよぴよ」と「かるろべろーちぇ」を使った模擬戦
※練習後、あんこうチームが沙織の家で『ごはん会』
※たかちゃん&ひなちゃんの「久しぶり〜♪」(試合当日)

さて、もし「明日は試合だから、あいさつに行くね」が正しい解釈だとすれば、カルパッチョの「帰宅なう」の時間が問題になる。
(2回戦が間近に迫っているような描写から考えて、両校学園艦の位置は、時差が生じるほど離れてはいないはずだ)


普通に考えれば、カルパッチョは学校(戦車道の練習)から「帰宅なう」なのだろう。
であれば、その時刻は昼過ぎと推定できるわけだが、それだと『ぴよぴよ』と『かるろべろーちぇ』を使った模擬戦をやる時間がなくなってしまう。
また、試合当日に『久しぶり』と言っているのだから、『帰宅なう』から試合当日までの間、カエサルとカルパッチョは再会していないはずだ。

その辺りを考慮に入れると、カルパッチョの帰宅は午前中、それも朝帰りでなければならない(純粋に帰宅が朝になった事を表現しているだけで、いかがわしい意味では決してない)。
すなわち、
・朝(始業前)『帰宅なう』
→みほがP40の資料を入手、それを元に作戦会議用の資料を作成
→午前中、生徒会三役+各チームリーダーによる作戦会議
→「ぴよぴよ」および「かるろべろーちぇ」の作製
→午後から(?)夕方まで模擬戦などの練習
→夕方、練習後にあんこうチームが沙織の家で「ごはん会」

こう考えれば、その翌日に大洗女子vsアンツィオの試合が行われて「ひさしぶり」に繋がるだろう。
しかし、これでは優季が試合で感激した桂利奈の操縦も、半日程度で上達した事になるから説得力が消えてしまうし、そもそも装填練習のシーンに描かれた影の長さは、明らかに昼を示している。


また、模擬戦においては、衝突や追突、横転や転落などの事故で、車体が損傷する可能性も十分ある。
多少の事なら、自動車部が何とかしてくれるだろうが、例えば予備のない部品が壊れてしまったら、ちょいと大変な事になるから、試合の前日に模擬戦は行わないのではないか。

であれば、『明日そっちに行くね』は、「貴(たか)ちゃんに会いに行く」のではなく、大洗女子の学園艦の方に向かう意味なのか。
すなわち、大洗女子の学園艦が、すでに競技場(山岳と荒地ステージ)最寄の港に到着しているのだとしたら、「私たちも明日、そっちの港に向けて出発するよ」という意味に取れるだろうが、それではあまりにも分かりにく過ぎる。

結局、それほど深い意味はなかったのであって、実は私らに見えないところで、「ごめん、やっぱり行けなくなっちゃった」という話…なのかな?

などとウダウダ書いて来たんだが、この『ダベ』用に画面を撮影していて、初めて気付いた。
タイトルメニューに、あんこうチームのごはん会のパート=『6.アンツィオ戦前夜です!』と、しっかり書いてあるではないか。


すなわち、『アンツィオ戦』において、少なくとも歴女チーム登場から、ごはん会までのシーンで描かれているのは、全て2回戦の前日という事になる。
その日に、カエサルはハード・トレーニングを行って、筋肉を酷使しているのだ。
『ぴよぴよ』と『かるろべろーちぇ』を車体に貼る(書く)ため、練習時間が削られたのだ。
桂利奈の操縦技術は、たった半日で目を見張るほど上手くなったのだ。
リスクを伴うであろう模擬戦(※)も、試合前日に行われたのだ。
 (※)練習場所についての話はコチラ

…まあ、華の大食&怪力とか、みほの泳力&超ジャンプとか、麻子の超絶テクニックとか、自動車部の『匠』ぶりとか、ガルパンの世界では一部の身体能力や技術が平均より高く抜きん出ている子たちが多く存在するから、半日程度の練習だけで桂利奈の操縦テクニックが、飛躍的に向上しないとは言い切れないけど、ご都合主義が過ぎるんでないかい?


例2)「貴ちゃんじゃないよ」

試合後、アンツィオ高の主催で行われた大宴会。
カエサルとカルパッチョは2人きりで、のんびり会話を楽しんでいたが、やがて他の歴女が「リーダーの招集」と言って呼びに来る。
そこから交わされる2人の会話だが、

 カルパッチョ 来年もやろう貴ちゃん!(握手)
 カエサル 貴ちゃんじゃないよ。
 カルパッチョ えっ?
 カエサル (右手でトーガをかき上げて)私はカエサルだッ。(大股で退場)
 カルパッチョ そーねー。(髪をひと筋かき上げて)それじゃ私はカルパッチョで。
 

はい、確かに2人とも格好いいです。
…でも、ごめんなさい。何が言いたいのか分かりません。
もしかして、友情は変わらないけど名前は変わるっていうギャグ?
それとも、鈴木が「もう『貴ちゃん』と呼ばないで」って言ってるだけ?

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

以上、どこまでが鈴木の手になる部分なのかは不明だが、不満/疑問に思う重箱の隅を思いつく限り突っついてみた。

ところで、鈴木がTVシリーズに提供したアイディアとして、彼自身や他のスタッフが語っているのは、
 ・学園艦の導入
 ・幟(のぼり)を使った都市迷彩
 ・立体駐車場を使った待ち伏せ
 ・マウスの仕留め方
   

そして最も重要なポイントが、
 ――戦車戦の具体的な内容はどのように決められていったのですか?
 最初に水島監督の「こんなことをやりたい」というオーダーがあって、それを元に基本的な流れを私
[=鈴木]の方で作っています。〔コンプリートブック〕

これらは全て、言うまでもなくガルパンを象徴するモノであり、鈴木の頭脳は、間違いなくガルパンに必要不可欠である。

また、水島はインタビューの中で、
 ――鈴木貴昭さんの脚本の「らしい」ところが今回の中にあれば教えてください。
 水島 鈴木さんは軍事関係にとどまらない、豊富な知識を持った方です。戦車の有効射程や装甲の厚さに関することをシナリオに取り入れていただいたのはもちろん、これは裏設定にあたりますが、アンツィオ高校の歴史などにまで踏み込んで考えていただきました。
〔OVA『鑑賞の手引き』〕

つまり、その知識は誰もが認める鈴木だが、脚本家としての腕は一流たり得ないという事だ。
その根拠を述べれば、彼の仕事の中には小説があるし、ガルパン以前にもアニメの脚本を書いた経験があると聞いたが、もし一流のストーリーテラーであったなら、そちらの方面でも大いなる名声を博しているはずだから。


以上の諸点を総合して得られる結論は、

 『餅は餅屋』

ガルパンに通じてなくても、ミリタリー趣味を持っていなくても、しっかり脚本で稼いでいる人に頼めばよかったんだと思う。
そうなれば相手もプロだ、ガルパンと戦車の勉強をして、一通りの知識を身につけるだろう。
足りない部分は、鈴木や水島をはじめとするスタッフが補えばいい。
そうすれば、日常パートもしっかりメリハリが効いた、至高の38分になったはずだ。


というわけで、『適材適所』を述べるために、何やかやと書いて来たんだが、実際の話、そういう批評は皆無みたいだから、一般には鈴木の脚本も大正解だったという事なんだろうし、もう出来上がってしまった物を、今さらグチグチ言っても仕方がない。


よって、劇場版(2015年11月21日公開)に向けての個人的な神頼み。

『アンツィオ戦』で若干オタク方面に傾きかけた学園艦が、ぜひとも一般向けに立て直されていますように。



そして華に『もっと光を!』



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