鈴木の吹雪≠公式の吹雪


本編と鈴木の設定が食い違っている一例として、TVシリーズ第9話とOVA第5話『スノー・ウォー!』を取り上げる。

まずはOVA第5話、準決勝における3時間の『休戦』中、偵察に出た優花里とエルヴィンが猛吹雪に遭遇し、

 エルヴィン 前が見えない。
 優花里 ちょっとこれは危ないですね、大休止にしましょうか。

で、雪洞の中の八甲田山ごっこに突入するわけだが、こうなると麻子&そど子が、何よりも心配になる。

学園内では無敵の風紀委員。
それを束ねる天下のそど子も、さすがに雪中サバイバルに関しては門外漢だと思われる。

一方の麻子だが、サバイバルの知識を持っていてもおかしくないし、徐行運転とはいえ正面から近づいて来る戦車に、寝起きの身体で飛び乗れる(第3話)だけの運動神経も持ち合わせているが、


ケーキの食べ方とか、ごはんの食べ方なんかを見るに、けっこう不器用そうだ。



そして、間違いなく2人とも本格的なサバイバル・グッズを持っていない(というか、持ち歩いてるのは優花里ぐらい)。
そんな2人が、優花里&エルヴィンが生命の危機を覚えたほどの吹雪に遭遇したら……


もしガルパンが、何かにつけて深刻な展開になるタイプのアニメだった場合、麻子&そど子の2人は雪の中で凍え死に、責任を追求されたみほが自ら命を絶ち、妹を責め立てて自殺に追いやった大洗女子学園に復讐すべく、まほがエリカを伴って学園艦に潜入し、やがて大洗女子戦車道チームの面々が、1人また1人と変わり果てた姿を晒していくような、戦車と関係ない話になるほどの悪天候の中、特別な装備を持たない2人は、しかし第9話において、何事もなく生還した。
 

一般的には、何の疑問もなく受け入れられているシーンだろう。
すなわち、「麻子たちは、そこら辺の空家に避難してただけだ」

が、何か割り切れないものを感じたので、何だかんだと考えてみた。

そして、私が覚えた違和感の正体を突き止めたのである。

 危ない吹雪など、最初からなかった

第9話において、天候の悪化を示すセリフと言えば、真っ先に挙げられるのがノンナのつぶやき。


しかしカチューシャは、屋根がないソリの中で3時間ほど、毛布も掛けずに眠っていた。


一方、大洗女子の方はと言うと、


と心配しているところに、元気な4人が戻って来る。


百合&新三郎や、しほ&まほなど、スタンドに陣取った観客は、みんな3時間の猶予時間を無事に過ごしたようだし、聖グロリアーナの2人に至っては、傘も差さずに紅茶三昧。

         『降伏勧告』直後                         3時間後





という諸々の状況から考えれば、確かに前は見えなくなるかもしれないが、決して危険な状況には陥らない吹雪としか思えない。
したがって、みほの心配は「偵察に出たみんなは、ちょっと寒いかもしれないな…」程度なのだろう。


ところで、OVA第5話のストーリーを一口で言えば、優花里とエルヴィンによるプラウダ偵察。
その中身を具体的に記すと、優花里が自分の持っている薀蓄を可能な限り披露し、突然の猛吹雪という危機を乗り越え、その最中に映画の一場面を演じる余裕を見せ、プラウダの選手を手玉に取り、悠々と本隊に戻って来る。そうした優花里の姿を、エルヴィンが尊敬の眼差しで見続ける。

そう、『スノー・ウォー!』は優花里のプロモーション・ビデオであり、『危険な吹雪』は彼女のサバイバル能力を示すために考え出された、鈴木オリジナルの設定なのだ。

また、OVA第5話において、みほが斥侯たちを心配する場面は、優花里&エルヴィンが雪洞から外に出た後(あるいはニーナを騙して情報をゲットする前)。

 みほ …偵察に出た人たち、大丈夫かな?
 沙織 大丈夫じゃない? きっと。
  麻子さんはしっかりしていますしね。
 みほ うん。でも…
  知ってます? 優花里さんって、普段から色々変わった道具とか持ってらっしゃるんですよ。
 沙織 知ってる知ってる! 何も持っていなさそうなのに、あちこちからはさみとかソーイングセットとか絆創膏とか出してくるの!
  わたくしはココアを頂きました。驚きですよね。何かあったら心配だから、最低限必要な物は必ずもっているんですって。
 沙織 一人サバイバルだね。
 みほ …(笑い)なら、大丈夫かな。
 沙織 うん!

この会話を聞く限り、みほと優花里の距離は、当初から思ったほど縮まってないようだ。
↑の台本に(補足)を加えると、
 みほ …偵察に出た人たち、大丈夫かな?
 沙織 大丈夫じゃない? きっと。
  麻子さんはしっかりしていますしね。
 みほ うん。(それなら麻子さんたちは大丈夫だね/それは分かってる)でも(秋山さんたちは心配だな)
  知ってます?
――以下、沙織と華で『優花里はスゴい』――
 みほ …(笑い)(二人がそこまで言うの/それだけ準備万端)なら、大丈夫かな。
 沙織 うん!

こうすると、いろんなものが見えて来る。

まず第一に、沙織も華も知っていた事=優花里が各種アイテムを常に携行している事実を、みほだけは知らなかった。

また、
 (i)麻子に関しては、華の「しっかりしていますしね」の一言だけで、その無事を確信しているが、優花里については他の2人が具体例を挙げながら熱っぽく語る必要があった。

 (ii)「なら、大丈夫かな」と言う時に、みほが浮かべている(笑い)は、誰が見ても苦笑であり、感心/感動している体ではない。


これら2点の事実から推測するに、『スノー・ウォー!』において、みほがチームメイトに寄せている信用/信頼の度合は、『沙織=華≧麻子>優花里』 と言えそうだ。
(なお、TVシリーズのvs黒森峰[第10〜12話]を見る限り、吉田脚本における信用度/信頼度は、『沙織=華=優花里=麻子』で間違いないだろう)

ついでに書けば、華が麻子の無事をみほに保証した根拠=『しっかりしているから』は、遭難しかねないほどの吹雪に通用するのか?

さらに言うと、OVA第5話も公式設定だった場合、そちらで『偵察に出た人たち』に対する心配を解いたはずのみほが、本編で再び『偵察に出たみんな』の心配を口にしているわけで、それは沙織と華を信用/信頼していない事になりはしないか?


というわけで、おそらくOVA第5話における鈴木の目的は、『優花里(とエルヴィン)の活躍をカッコよく描く事』その一点のみだった。
ゆえに他のキャラクターや本編の設定は、とりあえず脇に置いたのだろう。

であるなら、設定に齟齬(そご)が生じるのは当然だし、そもそも鈴木は、彼の務めた考証の役割について、
 ――本作で鈴木さんは「考証・スーパーバイザー」という肩書きで参加されていますが、具体的にはどのようなお仕事をされているのでしょうか?
 (前略)あと「考証」という仕事に対するスタンスについては、今回はまず水島(努)監督に映像としてベストと思える選択をしてもらって、あとの“言い訳”をこちらで考える……ぐらいのつもりでした。理屈の部分を優先するあまり、作品の面白さをスポイルしてしまうのはもったいないですからね。その意味では、通常の考証とは仕事の質がちょっと異なるのかもしれません。言い方を変えれば、作品の世界にあってもおかしくない理屈を作る「ギミック屋さん」ということになるでしょうか。〔コンプリートブック〕
と語っている。

もし彼が、その姿勢のままに脚本を書いたのだとすると、「本編と設定が食い違っていたら、後で理屈をつければいいや」ぐらいに考えたのかもしれない。

だから私は、各OVAや小説など、鈴木の手になるガルパン物は、『これが本当のアンツィオ戦です!』以外、全てパラレル・ワールドとして捉えるべきなんだろうと思う。

と言ったら、ミリ物好きの友人に長々と説教されてしまったので、皆さんもご注意ください。












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