船舶科と学園艦


公式設定として、大洗女子は他の学園艦と同じく、中高一貫教育を実施している。

ところで、麻子は普通科の、中学の時の同級生(A子)は船舶科の生徒である事は間違いないが、


船舶科に課せられた『義務』(※)などを考えれば、普通科と船舶科の生徒が、同じホームルームに所属する可能性はゼロと言ってよい。
 (※)船舶科の生徒は学費が免除とされているが1日8時間の三交代制となっており、それ以外にも授業を受けなければならないため普通科よりも激務である。〔アルティメット・ガイド〕
しかし、麻子とA子が中学の時の同級生だった事実もまた、動かす事が出来ない。

すると、麻子の体質や家庭環境から、彼女が船舶科だったとは考えられないため、普通科の中学生だったA子が、高校進学時に船舶科を選択したのだ。
『極度の低血圧のせい』〔第1巻『鑑賞の手引き』〕で朝に弱い=寝起きが悪い麻子には、船舶科の激務は到底こなす事が出来まいし、それ以前に適正の問題で落とされるはずだ)

だとすると、本編には船舶科の中学生と思われる子たちが登場するため(第7話)、A子のようなケースは珍しいのではないか。
(蛇足ながら↓の内、左の黒髪っ子も、れっきとした女の子である)


高校から船舶科に編入となれば、中学時も船舶科だった生徒に比べて、知識も技術も未熟である。
勤務形態などを考えると、補習の時間は多く取れないだろうから、よほどそちらの方に明るくないか、相当の努力家でない限り、一人前の船舶科生徒にはなれないはずだ。

いずれにせよ、麻子が別学科の生徒を『中学の時の同級生』と言った時、みほと優花里が何の疑問も抱かなかった事を考えれば、ガルパン世界では学科の変更が珍しくないのだろう。

てな事を一通り考えて書いた後、ふと現実世界を振り返ったら、ただちに別の答えが浮かんで来た。
すなわち『中等部に学科はない』

そこで、さっそく〔エンサイクロペディア〕で『大洗女子学園』の項を見てみると、
 中高一貫の学園には、高等部と中等部にそれぞれ9千人の生徒たちが在籍し、高等部には第1から第3までの普通科をはじめ、商業科、情報科、被服科、栄養科、工学科、水産科、農業科、船舶科の各学科が存在する。太字は筆者の仕業)

『高等部には〜各学科が存在する』という事は、裏を返せば『中等部には各学科が存在しない』。
(実は『中等部には普通科、理数科、船舶科の各学科が存在する』などの可能性もあるんだけどね)
だとすれば、普通科の麻子と船舶科のA子が中学の時の同級生だったとしても、何ら問題はない。

私は、↑の2人を見て「中学生にも船舶科がある」と思い込んでしまったんだが、実は白い制服は本来の意味でのセーラー服=作業着で、この2人は中等部のカリキュラムに組み込まれた実習の最中だったのかもしれない。
『必修選択科目』の授業が、全学園規模で同時に行われているのなら、2人は中等部だけで行われている『操船』の授業中とも考えられる(以上、憶測)。

というわけで最大の疑問は、単なる勘違いで決着したんでした。


ところで、ガルパン(特にOVA第3話)には、船舶科の生徒たちが数多く出て来るが、普通科の生徒たちと明らかに違う点がある。

それは、ヘアスタイル。


船舶科の髪は、そのほとんどがショート(長くて肩に軽くかかる程度)か、長いのをまとめてあるかで、例外は25人中2〜3人に過ぎない。
船の事には全く疎いんだが、おそらく作業の障害になるからなんだろう。
機械なんかに巻き込まれたりしたら大変だしね。

さて、この子たちを見ていたら、そど子が『おかっぱか三つ編みかお下げ』てな事を言っていたのを思い出したんで(弐尉マルコ『ガールズ&パンツァー もっとらぶらぶ作戦です!』第7話)(※)
 (※)「髪型も理想では私と同じのを課すところだけど、それは許してあげるわ! ただし長さは肩までかお下げか三つ編みにすること!」
ちょいと大洗女子学園戦車道チームの髪の状況を調べてみたら、

【ショート組】

 上段 左から優花里・みほ・優季・桂利奈・梓・紗希・カエサル・エルヴィン
 下段 左から典子(キャプテン)・桃・そど子・ゴモヨ・パゾ美・ももがー・ツチヤ・スズキ・ナカジマ・ホシノ 以上18人

【束ね組】

 左から おりょう・あけび・妙子・忍・柚子・ぴよたん 以上6人

【ロング組】

 左から 沙織・華・麻子・あゆみ・あや・左衛門佐・杏(会長)・ねこにゃー 以上8人
(ツインテールは作業をするのに邪魔そうなのでコチラへ入れました)

てな感じで、奇抜なヘアスタイルは少ないが、現実の戦車では引っ掛かりまくりな髪をしている子が多い。
(ちなみにロング組の子たちは、試合中も髪を結ったり束ねたりしていない)

ついでに言うと、そういう髪型だとかヘルメットなしだとかミニスカートだとか、そもそも女子高生が戦車だとか、現実ではありえない事を描いているため、ガルパンはミリタリー・マニアの大部分から嫌われている。
たとえば、著書『戦車メカニカル図鑑』が、ガルパン・スタッフ必携の1冊となっている大御所ミリタリー作家・上田信は、同スタッフとの座談会で、

 真庭 この辺りで、上田先生にあらためて『ガルパン』に対する印象をうかがいたいんですが。
 上田 私は全然違和感ないんだけど、意外と拒否感ある人はいるんだよね。ちょっと邪道だというような感じで。〔お疲れ本2〕
(真庭=真庭健蔵[『アンツィオ戦』設定制作])

また、戦車で砲撃戦をしても人が死なない/傷つかないため、スリル=人死に/流血を待つ人たちのほとんどから嫌われている。
すなわち、TVシリーズ及び『アンツィオ戦』を通じて、流血したのは、じゃがいもを剥き損ねた華(第2話)だけだし、


戦車戦における大洗女子の人的被害と言えば、乗車に直撃弾を食らったショックで華が気絶し(第3話)、撃破されたM3内で、2階にいたあやの眼鏡が2度ほど割れている(第9話・第12話)ぐらいだ。
 
(ファイアフライが相手の1回戦でも、割れた可能性は十分あるが、描写がないので勘定に入れない)

 一方、対戦相手を見てみると、絡まりやすい髪型ではボリュームのアッサム、ロングのノンナ、そして何と言ってもアンツィオの統帥アンチョビ。
  

また試合でも、『アンツィオ戦』のCV33軍団の乗員は、何回も八九式に転がされているのに、その都度3トンある車体を2人で起こすほど元気だし、最終盤、アンチョビの元に駆けつけたM41が崖から落ちるシーンでは、その車長と思われる選手が「いた(痛)っ」と叫んではいるものの、大したケガもしていないようだ。
 

それもこれも、全て『カーボン』のおかげ(※)なのだが、そんな物は現実に存在しない。
だからガルパンは、リアリティ至上主義の人たちに嫌われているのだ。
(※)撃破された戦車の乗員を見ると、ほとんど顔や服が煤(すす)けているのだが、あれがカーボンの恩恵を受けた痕跡なのだ(たぶん)。


そんな事はどうでもよかった。

優花里によれば『船を動かしているのは全部生徒なんですよ』(OVA第3話)という事だが、確かに艦橋にも機関室にも、指導者らしき成人の姿がない。

 艦橋/機関室


現実の常識で考えた場合、大洗艦に乗っている3万人もの命が、中・高生たち数十人〜数百人の手に委ねられているというのは、いかがなものかと思ってしまうが、実際に操船できているのだから、何の問題もない。

まあ結構な大きさ(※)+特殊な構造(※※)だから、滅多な事では沈まないだろうし、どうしても生徒たちの手に負えないトラブルが発生した時などは、何らかの形で教官とか艦長といった人たちが助け船を出すのではないだろうか。
 (※)大洗女子の学園艦は小型の部類だが、全長7,600m、甲板最大幅900mに及び地方都市程度の面積を有している。〔アルティメット・ガイド〕
 (※※)これは従来の船舶とは大きく異なり、50メートルの中空のブロックを多数繋ぎ合わせて、一つの船の形にするタイプであった。〔第3巻『鑑賞の手引き』〕

なお、現実の船なら絶対に立ち入る事が出来ない艦橋や機関室に、事前予約なしで入れるのだから、間違いなく大洗女子学園の生徒たちは良い子ばかりだ。
また、方々に様々な形で女子寮が散らばっていても、特に問題が起きてないようだから、女の子を狙った犯罪も皆無に等しいと思われる。
ただし、外出時には施錠が必要という点を考えると、空き巣はいるのかもしれない。


としたら、みほたちが活躍している裏で、学園艦署勤務の婦警さんと怪盗アンコーヌの追いかけっこなんかが繰り広げられているんだろうか。


そんな事はどうでもよかった。

学園艦と言えば、公式設定において、
 この時代、中学校以上の学校の多くは学園艦で海上に出るのが普通となっていた。〔第3巻『鑑賞の手引き』〕
と、特集記事の冒頭に記されているわけだが、聖グロリアーナとの練習試合後の大洗町(第4話)を見てみると、




てな感じで、最低でも5つの学校の生徒が遊びに来ている。

ちなみに、練習試合前の作戦会議で、典子(キャプテン)の「もし負けたら?」の質問に、杏(会長)は、
  大納涼祭りで、あんこう踊り踊ってもらおうかな。
そして試合後、AチームとEチームがあんこう踊りを踊っている。
すなわち試合当日が大納涼祭りだったという事で、もしかしたら祭りの一イベントとして練習試合が組み込まれていたのかもしれない。


それはさておき、ガルパン世界の学校の多くは『中高一貫教育』かつ『学園艦』なのだから、↑の彼女たちの学校も、学園艦である可能性が高い。
とすれば、港は大洗女子と聖グロリアーナの2艦で一杯なようなので、これらの学校は沖に学園艦を停泊させて、第7話に出て来たような連絡船(※)を使ったか、近隣の港に艦を入れて大洗には陸路で来たのか。
 
 (※)大洗女子の連絡船は、旧日本海軍の防護巡洋艦『松島』がモデルになっている。〔アルティメット・ガイドなど〕

ところで、大洗女子の学園艦は、全長7600m。
現実世界の感覚では「7600mもあるのか!?」なのだが、ガルパン世界では「7600mしかない」小さな学園艦だ。


普通、主人公たちの乗り物と言えば、最新型のスゴい奴が定番で、同等のメカは最強のライバルしか乗っていない事になっているもんだが、大洗女子の学園艦は、お世辞にもスゴい船とは言えない。

その理由は、当初の設定にあるようで、

 ――あんこうチームの面々はどうやって決まっていったのですか?
 吉田 (前略)名門校にいた子が挫折して転校して、
弱小校でがんばるという正統派のスポーツものの構図ですね。〔第1巻『鑑賞の手引き』〕

 杉山 もともとはちょっと違って[最初から大洗町を舞台にするという話だったのではなく]、山陰の小さな町にしようという話だったんです。なぜかというと『ガルパン』はスポーツ物なわけで、そうなるとやっぱり、高校野球における豪雪地帯の学校みたいに条件の悪いところから出てきた学校だと、みんなが応援したくなりますし、(後略)〔コンプリートブック〕(いずれも太字は筆者の仕業)

では、小さな町の学園艦だから小さいのかと言えば、そう一概にも言えないようで、

 これ[戦後に建造された新しいタイプの学園艦]は従来の船舶とは大きく異なり、50メートルの中空のブロックを多数繋ぎ合わせて、一つの船の形にするタイプであった。(中略)
このブロックを組み合わせて作った広い空間は、色々な用途に使えたが、戦車道を行う場所としても適切で、また各地に移動するのにも便利がよく、学園艦は戦車道に不可欠な存在となった。〔第3巻『鑑賞の手引き〕太字は筆者の仕業)

つまり、学園艦の大きさは戦車道の修練と深く繋がっているわけだ。
だから本編で優勝候補とされていた聖グロリアーナ・サンダース・プラウダ・黒森峰(四天王)の学園艦は、ちゃんと大きい。
ただし(8)は、四天王と比べても見劣りしない大きさだが、『ハートフル・タンク・カーニバル』で配布されたパンフレットからは、それなりの実力はあるものの、四天王には及ばない程度の『古豪』っぽい感じを受けた


それを西絹代が噂の島田流(憶測)で、どのように立て直したのか、という点も劇場版で判明――したらいいなー。

なお、学園艦と戦車道の関係に関しては、〔アルティメット・ガイド〕に掲載された記事が、分かりやすいと思う。

 広大な学園艦の甲板は、陸上で生活するのと何ら違わない生活環境が再現されている。
 大洗女子の学園艦は小型の部類だが、全長7,600m、甲板最大幅900mに及び地方都市程度の面積を有している。
 空母にたとえるなら飛行甲板にあたる部分には学園の校舎を含む体育館やグランドといった学園敷地、そこから広がる商店街や商業区域、さらには住宅地も存在している。

露天艦橋から学園を見下ろす(OVA第3話)

 街中の公園はもちろん、郊外には造成された森林公園や池を含む休憩地もある。
 全てが平坦地ではなく、丘陵地帯や大きな池まで含む地形が構築されているのだ。

大自然の向こうに白亜のビル群(第2話)

 だが、戦車道を行うために学園艦があるわけではなく、結果的に戦車道には学園艦が最適だったのだといわれている。
 学園内に戦車を自由に走らせ訓練できる場所があれば、常に操縦練習や模擬戦が行えるのであるから当然だ。

軽く1.5kmの距離を取れる練習場(『アンツィオ戦』)

 学園艦を保有する学校の方が戦車道に適した環境であることは間違いなかった。
 学園を機能させるために学園艦があり、学園艦だからこそ戦車道に適しているともいえるだろう。

(コラム『学園艦の役割と存在理由』内「学園艦と戦車道」より一部抜粋。画像はイメージです)


最後に、みんな大好き私も大好き『学園艦』は、鈴木貴昭(考証・スーパーバイザー)の発案によるものだ。

 ――戦車道と並んで『ガールズ&パンツァー』の世界観を象徴する学園艦ですが、このアイデアはどこから出てきたのですか?
 鈴木 まず、戦車を街中で走らせたいというアイデアがあったんです。そこで私のほうから、ならば学園艦というアイデアを絶対入れたほうがいいと提案させてもらいました。
(中略)ただ、できあがった設定を見たら、ものすごく大きなものになっていて、しかも山や崖まで出てくるんで、私もかなりびっくりはしました。〔第2巻『鑑賞の手引き〕

 ――そのなかで[考証・スーパーバイザーの仕事の中で]、鈴木さんから提案されたことにはどんなことがあったんでしょうか?
 最初に提案したのは、学園艦を登場させることです。女の子が町中を戦車で走ること自体はすでに新しいものではなかったので、企画の目新しさや作品の世界観をひと目で視聴者に伝える手段として絶対に必要だと強く主張しました。あれを見てしまったら、ミリオタ的にも「これにツッコんだら負けじゃん?」といやでもマインドセットせざるをえませんからね(笑)。〔コンプリートブック〕

ただ、前述の上田信を交えた座談会では、

 上田:あと、空母に(町が)乗っかってたっていうのも(笑)。まさかそうは思わなかったから。でもすごくでかい空母で間違った考えだよね。普通は野球場4つくらい? あれ、町内になっちゃってるからね。
 鈴木:あそこは強硬に学園艦を作れという話が。最初、2キロくらいとは言ってたんですけど、プロデューサーが「7キロ」、監督は「人口3万人じゃないとダメだ」って。〔お疲れ本2〕

と、この言葉からは、提案者が鈴木か他スタッフか判然としない。
すなわち、学園艦の提案者が鈴木だったら、「強硬に学園艦を作れという話(私が他のスタッフにした)が普通である。
それに対して、資料のような表現では、「強硬に学園艦を作れという話(他のスタッフから出た)となるのではないか。

なぜこの時だけ、こんな曖昧な言い方をしたのだろう。
大先輩を前にして、自分の仕事を控えめに言おうとする謙虚な気持ちが現れたのか。
あるいは、直前の「間違った考え」を聞いて、とっさに事実を隠そうと思ったのか。
(座談会を読めば察せられる通り、上田は「間違った考え」を決してネガティブな意味で言ってるわけではないようだ)

いずれにせよ、学園艦こそは鈴木の功績である。
そして、これを享受できた者はガルパンに嵌り、できなかった人はアレルギーにも似た拒否反応をガルパンに示している。

つまり学園艦とは、ガルパン世界の門番なのだ。


…デカい門番さんだね。








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